皆さんこんにちは〜!スヤです。
ATEEZ(エイティーズ)の日本盤『Into the A to Z』の発売を記念して、集合知 初のインタビュー記事をお送りします。
なんと今回、「UTOPIA」「Answer」、そして日本オリジナル曲「Better」の日本語歌詞を作成した玉木千尋さんにメールインタビューをさせていただくことができました!
さて、KPOPオタクの間でも度々話題にのぼるKPOPの日本語バージョン楽曲。訳詞による本国曲との印象の差異を憂慮するファンも少なくありません。
今回は、ファンの間でも名訳と名高いATEEZの日本語曲の訳詞からはじめ、「KPOPの日本語曲」について深堀りしてみようと思います。
- ATEEZと日本盤をざっくり解説
- ATEEZ「UTOPIA」「Answer」の訳詞者 玉木千尋さんインタビュー
- KPOPの日本語歌詞問題
- 日本語バージョン秀逸曲15選!
- おまけ考察
- 後記:異言語の音楽を翻訳するということ
ATEEZと日本盤をざっくり解説
まずはATEEZというグループとその音楽について、そして日本盤『Into the A to Z』の収録曲についてちょこっと紹介します!
ATEEZとは?
ATEEZは、2018年10月24日にデビューした8人組ボーイズグループ。(2021年4月現在は、ミンギが活動をお休み中。)同期はIZ*ONEです。
デビュー曲は「Pirate King」で、その曲名の通り"海賊"をコンセプトにしたグループ。ダイナミックで壮大、かつエモーショナルなパフォーマンスが持ち味で「感情が昂り没入するあまりダンス中に白目を剥く」というトンデモパフォーマンスを繰り広げるメンバーが多々・・・。とにかく凄まじいステージ掌握力を持ったグループだと思います。
98lineが2人、 99lineが5人(!?)、00lineのマンネが1人という3学年にぎゅぎゅっと詰まったメンバーは和気藹々と仲良しで騒がしくて可愛い。
ATEEZのクリエイター陣
ATEEZのプロデューサー陣はEDENを筆頭にBUDDY、LEEZ、Ollounderの4名で構成されています。また、メンバーのホンジュン・ミンギも作詞に積極的に参加。ホンジュンは時折作曲でもクレジットされています。
EDENは、BTOBの「Missing You」「I'll Be Your Man」、GFRIENDの「Neverland」、Wanna Oneの「One Love」、PRODUCE48の「Rumor」などを手がけたプロデューサー。WOODZ(チョ・スンヨン)との共同制作も行っていて、ソロ歌手としても活動中です。
ATEEZではメインプロデューサーとして、全曲の作詞作曲を手がけています。
日本盤『Into the A to Z』
『Into the A to Z』は、本国曲の日本語バージョン8曲と日本オリジナル曲が2曲で構成された3枚目の日本盤です。
今作では初出トラックも多く、日本語バージョンが新たに多く公開されました。また、日本オリジナル曲(※作詞作曲は本国チームの訳詞曲)「Still Here」もリリースされています。
ATEEZ「UTOPIA」「Answer」の訳詞者 玉木千尋さんインタビュー
ATEEZの日本語曲の中でも屈指の名訳詞と名高い「UTOPIA」と「Answer」。そして日本オリジナル曲(※作詞作曲は本国)の「Better」。
今回は、この3曲の訳詞を担当された玉木千尋さんに実際にメールインタビューを行うことができました。ATEEZの訳詞の秘密に迫ります。
Interviewee プロフィール
玉木千尋さんはTime Files ,inc所属の作詞、作曲、編曲家。
「アイドルマスター」シリーズや「アイドルマスター シンデレラガールズ」シリーズの楽曲に多数参加しています。その他、『テニスの王子様』『新テニスの王子様』を始め、多くの人気アニメの主題歌やゲームのテーマ曲にも関わる等、多方面で活躍中。
訳詞はコンペ形式!?
—普段は作編曲を主に手がけられている玉木さんが、ATEEZという韓国のアイドルグループの訳詞を手がけることになったきっかけとはなんだったのでしょうか?
玉木さん:日本語歌詞コンペのご案内を頂き、そちらに提出した歌詞を採用して頂いた形になります。
もちろん個人宛の依頼もあるようですが、訳詞制作の際には、コンペの形式が取られることがままあるようです。
日本語歌詞はどう作っているの?
KPOPの日本語バージョンの制作においてまず疑問に思うのは、どうやって訳詞しているのか?という点ではないでしょうか。また、本国PD陣からのリクエストや指定などはどれくらいあるのかについても気になるところ。
—日本語訳詞に際して、どのような手順で訳詞を行ったのでしょうか?韓国側からのリクエストや指示はありましたか?
玉木さん:予め韓国語歌詞をそのまま日本語訳した資料を頂いておりましたので、そちらを利用しつつ作詞を行なった形です。
また、韓国サイドからの「原曲の歌詞の意味をなるべく崩さないで欲しい」というリクエストの元、表現や言い回しを吟味しつつ「詩」から「歌詞」に昇華させていくという工程でした。
—楽曲を聞いた時や訳詞を行う過程で感じたことを教えてください。
玉木さん:ATEEZの楽曲は、初めて聴いた時からとても惹きつけられる魅力があったので歌詞もスラスラ書けたのを今でも覚えています。
歌詞の情報量の取捨選択
訳詞で気になるのは、やはり韓国語と日本語の情報量の違いとその取捨選択。原詞の意味を取り入れすぎても違和感のある日本語になってしまうし、かといって減らしすぎてしまうと曲の世界観やメッセージが損なわれてしまいます。玉木さんはどのようにアプローチを行なったのでしょうか。
—日本語歌詞を作成する際に大切にしたポイントがあれば教えてください。
玉木さん:韓国語歌詞との聞こえ方のギャップを極力無くしつつ、日本語歌詞としてのクオリティも担保するという点です。
日本語歌詞に違和感があるとせっかくの楽曲の魅力も半減してしまいますので、日本語としての自然さも意識しながら、韓国語歌詞の響きやリズムになるべく近くなるようアプローチをしています。
—日本語と韓国語には、ワンフレーズに対して情報量の差がかなりありますよね。
玉木さん:情報量の違いに関しては、主語を省いたり、本来の意味を損なわないよう注意しつつ別の言葉に置き換えたり等々、色々な工夫をしております。
その中でもラップパートに関しては、日本語の少ない情報量で意味を伝えつつ、かつ韻も踏まなければいけないという点でとても苦労しました。
ATEEZ楽曲の魅力とは
インタビューの終わりに、普段はクリエイターとして日本国内の楽曲の作詞作曲を手がける玉木さんに、ATEEZの音楽の魅力についてお伺いしました。
—訳詞をする上で、ATEEZの楽曲についてどう感じましたか?
玉木さん:ATEEZの歌詞は比喩表現が多いのですが、その中にも固い意志や背中を押してくれる力強い言葉がしっかりと存在しているので、とても情緒溢れる印象を受けました。
敢えて説明しすぎない事で聞き手の想像力を最大限に刺激してくれる歌詞と、幻想的な楽曲が合間って、とても心地良い気分にさせてくれます。
▽UTOPIA Japanese ver.
All of my life ただ探す
届きそうな距離で
揺れる蜃気楼 幻想のdreamer
感情が支配する…
絵空事(えそらごと)だと笑われても良いさ
真実の園
—最後に、日本の第一線で活躍されている、玉木さんの作曲家としてのキャリアから見た、ATEEZの音楽の魅力について教えてください。
玉木さん:メロディがとてもキャッチーで綺麗なのが魅力的だと思います。Trapや音サビが主流の昨今のK-POPシーンにおいて、 日本語詞にしても違和感がない綺麗なメロディラインは唯一無二だと思います。
—大変貴重なお話をありがとうございました!
(取材・文=スヤ)
KPOPの日本語歌詞問題
推しグルの日本語バージョンのリリース時、全オタクが気になって気になって仕方なくなってしまうのが、訳詞の言葉遣いの違和感や、ニュアンス・意味合いの変化。
いわゆる「トンチキ歌詞」なんて言われたりもしますが、原詞との差異に戸惑ってしまう人も多いんじゃないでしょうか。
「訳詞」の難しさ
韓国語歌詞の直訳は、すでにプロの翻訳家が行っていることがほとんどです。 その和訳された歌詞を見ながら、実際にリズムにメロディなど音楽的な制約に絡めながら音符の数に文字数を合わせ、「歌える歌詞」を作成するのが作詞家の仕事。
言語によって、発音や音韻的な特徴は異なります。簡単に説明すると、"ひといきで言える言葉"の中に入っている音の種類や数が言語によって違うということ。
そのため、同じ文字数に置き換えても、リズム感、躍動感や疾走感といった「音楽のスピード・勢い」が異なって聞こえてしまうこともあるのです。そういったことにも気を配り、原曲の雰囲気を最大限に再現することも苦戦のポイントだそう。
また、訳詞では元の楽曲の世界観やメッセージを壊さずに、日本語として成り立つように意訳することが大きく求められます。
何気ない一つの言葉でも、そこから連想される行動や概念、暗黙の了解や常識、感性などは、言語や文化圏が変われば大きく変わるもの。
原詞の世界観だけでなく、楽曲の主題や言いたいことを的確に捉え、日本語的な比喩表現に置き換え直す必要もあるのです。
音楽にはめる難しさ
KPOPの日本語バージョンにおいては、「韓国語」と「日本語」の音的な要素に注目して具体的に見ていくと、訳詞の難しさがよくわかると思います。
簡単に言うと、韓国語と日本語では、言語のスピード感の印象に大きな差があるということ。この音の差異を埋めながら、言葉が持つ意味を最大限再現するということがかなり難しいのです。
もっと詳しく:韓国語と日本語の音の違い
KPOPの日本語バージョンを作る場合に、最難関となっているのが、日本語と韓国語の言語自体が持つ発音や抑揚、リズムの特徴の違い。
韓国語特有の濃音や激音、鼻音化などの「跳ね」や「息の勢い」「詰まり」を活かした楽曲はそのまま日本語にしてしまうとリズム感が変わってしまい、楽曲の勢いやスピード感のようなものが失われてしまいます。
また、日本語には、長音「ー」や促音「っ」もひとつの音としてカウントするという音の特徴があります。そのため、歌において"音符を消費する文字"が韓国語より多いのです。
詳しくは、以下の記事に具体例や訳詞の工夫などの具体例が紹介されているので、読んでみると面白いかと思います!
日本語バージョン秀逸曲15選!
お待たせしました!!
ここまで長かったですよね。お読みいただきありがとうございます…。
さて、ここからは各ファンダムのオタクに聞いた(そしてわたしの好みを多分に含む)KPOPの秀逸な日本語バージョン曲を紹介します〜!!
日本人作家による楽曲提供ではなく、韓国語の原詞がある訳詞曲に限定して、ナムジャドルからヨジャドルまで幅広めにピックしました。
※日本オリジナル曲でも原詞が韓国語であればOKというルールで選んでいます。
ぜひプレイリストを聴きながらお気に入りを見つけてみてください〜!
普段「日本語曲はちょっと聞かないかな」という方も、よかったら試し聞きしていただけたらとっても嬉しいです。
Sportify版プレイリストを友人が作ってくれました。ありがとう…!
ちなみに、普段あまり掘り下げて聞いていないグループの楽曲は、各グループのオタクの皆さんから推薦をいただき、選出しました。ご協力ありがとうございました…!
※下線が入っている訳詞者の名前はリンクになっているので、公式サイトもしくはWikipedia等の外部サイトに飛びます。
ATEEZ「Answer」
もっと奥に We don’t care
恐れなど anymore
誰も近づけない
さあ火を灯せ건배하자 like a thunder
君を注いで
溢れるほど
もっとグラスを上に
世界中から見えるように
日本語訳詞:玉木千尋
ATEEZからはやっぱりこの曲を。原詞の歌詞の意味を最大限取り入れつつも、潤沢な日本語でATEEZの壮大な世界観を表現しきった名訳だと思います。日本語としてとても自然で、聞いていて違和感がありません。
また、個人的には「건배하자 like a thunder」という印象的なフレーズを無理に日本語にしなかった点も好き。
ONEUS「Valkyrie」
めらめら燃えてる僕の目が
心で君を求めてる
君いない世界は 色さえ無いんだ
Please Light me up 眩しい
僕の光闇をValkyrie 僕を照らして
明日をValkyrie
どんな時でも繋がろう
日本語歌詞:柳川陽香
北欧神話に登場する「Valkyrie(ヴァルキリー)」と明かりを「灯す(밝히다→밝히리)」を掛けた歌詞はかなり日本語訳が難しい部類の曲。
日本語で言葉を補いつつ、原曲の世界観を壊さずに、「Valkyrie」という印象的な単語をうまく使った日本語歌詞です。
GOT7「備忘録」
どんなことも聞かせて
些細な話も 小さなグチも
全部きっと そう任せて
1から10までの
すべて
日本語訳詞:Co-sho
リリースは日本語先行ではあるものの、先に本国でデモが作成されており、原詞が韓国語の曲。原曲はヨンジェ(Ars)が作詞作曲を行なっています。
音数の少ないスタイリッシュなGOT7の曲は、日本語の少ない音節で再現するのはかなり難易度が高かったのではないかと思いますが、違和感のない言葉選びにより、聞いていて心地よい「ガッセサウンド」を崩していない点がすごい。
テミン「Danger」
Danger
今宵も今宵も今宵も今宵も
Danger
心ごともらうよStay 君が瞬いて
世界が息を呑む
Stay おいで 奪ってみせよう
It's my show time
日本語訳詞:田中秀典
原曲は言葉遊びや単語の音で楽しむような歌詞が多いテミンの「Danger」。こういった曲が日本語バージョンを出すと、いわゆるトンチキソングになりがちでかなり難しいのでは・・・と思いましたが、原曲の音遊びを活かした歌詞に。
〈オヌルパム(今夜)〉という単語を〈今宵〉と訳したり、〈ノン チョルチョヘ(君は徹底している)〉を〈Knock 頂上へ〉、〈サラジョヨ(消えよう)〉を〈さよなら〉と似ている発音の言葉に置き換えるなど、訳詞とはこうであれという一曲
WINNERやテミン楽曲から学べる“生きた韓国語” NICE73が教える、K−POP歌詞の読み解き方 | ぴあエンタメ情報
SHINee「Everybody」
Everybody Everybody
Every-Everybody 聴こえるだろう
Everybody Every-Everybody
Everybody Everybody
Every-Everybody 君呼び起こせ
日本語訳詞:桜井紗良
SHINeeの日本語力がかなり高いのもあってか、原詞に発音が似ている日本語を意識した歌詞というよりは、かなり大胆に意訳してある「Everybody」。
良い部分はAメロにもBメロにもたくさんあるのですが、なんと言ってもサビの意訳がすごい。everybodyという単語に挟まれた一節の韓国語を的確に置き換える手腕が見事です。
PENTAGON「HAPINESS」
僕と飛び出そう 今
ここじゃないどこか
きっと 見つかる
僕らのHAPPINESS
日本語訳詞:キノ、ユウト、久下真音
リリースは日本語先行ではあるものの、先に本国でデモが作成されており、原詞が韓国語の曲。訳詞はメンバーのキノ(作詞作曲者)とユウトがメインで行ったそうです。
上記冒頭の部分は、韓国語だと「逃げ出そう」となっていますが、「飛び出そう」に置き換えることで、プラスなイメージを与える歌詞に。日本でリリースされた季節が夏だったことが関係しているのか、爽快感のある言葉選びがされています。
SEVENTEEN「Happy Ending」
聞かせて 聞かせて
愛してる してる
言ってほしい 言ってほしい
愛してる
日本語訳詞:Haru.Robinson
この曲も先に韓国語でデモが作成されている曲。トラックメイカーとして作詞作曲を担うウジ(メンバー)が日本語訳のディレクションに参加している点が特徴です。
サビの部分は、韓国語詞では「聞きたい 聞きたい 愛してる」となっていますが、日本語では上記の歌詞の方が自然に伝わるであろうことを配慮し、意訳を決断したそう。この判断を下すウジの才覚がすごい。
NCT127「Touch」
Stay oh このままでいてよ
Baby touch me こころ寄りそう
刹那の瞬間 こぼれそうなほどに
高まる Baby oh
伝わっていくこの感情
日本語訳詞:MEG.ME
日本コンサートでの定番曲で、ファンもシンガロングできる曲として人気の「Touch」は、キャッチーで口ずさみやすい訳詞が印象的です。
韓国語の歌詞は音に対する意味が多く、取捨選択が難しい歌詞のように感じましたが、大胆に言葉を置き換えることで成功した例だと思います。直訳の言葉遣いに囚われすぎずに意味を変えない言葉選びが秀逸。
TREASURE「オレンジ」
今日もオレンジに染まる君
想いながら
暗くなる街 一人行くんだろう
君との時間愛おしくて
明日もそれから先もずっと
君を見てたい
願いを込め見上げた空には
泣きたくなるほど綺麗な夕焼けが
日本語訳詞:—(記載なし)
メンバーのアサヒが作曲、作詞はアサヒ・ハルト・ヨシ(ラップ詞はヒョンソク)が行った曲。日本盤のクレジットでは、オレンジのみ日本語訳詞の記載がないことから、メンバー本人たちが訳詞(作詞)を行ったのではないかと予想しています。
感性的な歌詞が素敵な一曲ですが、特に注目したいのがラスサビの歌詞。韓国語では1サビ2サビと同じ歌詞の繰り返しですが、日本語バージョンだけこの部分の歌詞が異なっています。転調し、ユニゾンコーラスとなるラスサビでこの歌詞が来るのは鳥肌もの。
参考:TREASURE オレンジ 歌詞 - 歌ネット, ORANGE / TREASURE 歌詞和訳 かなルビ
BIGBANG「BLUE」
冬から春へ変わる
心は懐かしさであざだらけI'm singing my blues
悲しみも涙も青く染まる
I'm singing my blues
浮き雲に放した愛 Oh oh
日本語訳詞:SUNNY BOY
名訳と名高いBIG BANGの『BLUE』は、悲しみや恋しさを「青」に例えた感性的な曲。訳詞は、リオデジャネイロ五輪のNHK公式ソング「Hero(安室奈美恵)」を作詞・作曲・プロデュースしたSUNNY BOYさんです。
サビの「青い涙に青い悲しみに 慣らされて」という抽象的かつ印象的な歌詞を「悲しみも涙も青く染まる」と訳した点が秀逸だと思います。口ずさみやすくも詩的な表現が素敵な曲。
赤頬思春期 「私の思春期へ」
美しかった記憶がつらくて
どれだけ苦しんでも 消えなかった
友達もみんなも 見つめてるのに
本当の私から 遠ざかっていくそれでもいつの日か
光にさえ なれる気がして
すべての痛み 越えたなら
輝ける気がしたの
日本語訳詞:岡嶋かな多
詩的で美しい言葉選びが素敵な曲です。原詞のニュアンスがほぼ変わらず取り入れられているにも関わらず、日本語としても美しく成り立つ詞は秀逸の一言。
ちなみに日本語訳詞を担当された岡嶋かな多さんは、BTSの日本語曲「Crystal Snow」や、三浦大知の「EXCITE(仮面ライダーエグゼイド主題歌)」、三浦春馬の「Night Diver」等の作詞作曲を手がけた方。赤頬思春期の他の曲も訳詞をされています。
OH MY GIRL「花火(Remember Me)」
愛で溢れた 思い出たちが ゆらめいて
もう待てないと 走り出した きらめいて目を閉じて (Remember me)
始まる magic (Remember me)
初めての (Remember me)
「好き」だった
do you remember 恋の花火
日本語訳詞:伊藤千恵
日本語曲が良いグループとして評価が高いのがOH MY GIRL。訳詞の自然な日本語の美しさと、メンバーの日本語発音の綺麗さによってクオリティの高い日本語バージョン曲が多い印象が強くあります。
原詞の意味や世界観が最大限反映されつつも、日本語として言葉遣いにも音にも違和感のない歌詞は聞いていて心地が良いです。
GFRIEND「夜(Time for the moonlight)」
キラリ この星の瞬き
君も見てるかな?
儚さが心濡らして
どれだけ傷ついても
“さよなら”とは送れずに ずっと
ひとりの夜 ただ君が欲しいよ밤...夜を越え
As time, time for the moon night
夢で逢いましょう
日本語歌詞:Funk Uchino
言葉遣いだけでなく、音数にも違和感なく聞ける美しい日本語歌詞として、GFRIENDの「夜」もかなり秀逸だと思います。 何も知らなければ、日本のアニソンとして違和感なく聞けるのではないでしょうか。
また、サビ後半の「밤」の音遊びを活かしたフレーズは敢えて和訳せず、耳ざわりを優先しているのも取捨選択が成功している例だと思います。
IZ*ONE「FIESTA」
花たちが目覚め 花びら舞うとき
全てが始まる これこそがそうClimax
私自身が眩しく煌めく
誰も止められない
始めるわ
Fiesta 心熱く燃え盛り
季節が息を吹き返す
太陽は私を照らし
永遠(とわ)に沈まない
あなたも さあ ここへ
It's my Fiesta
終わりのない It's my Fiesta
日本語訳詞:宮脇咲良
多方面から絶賛され、高い評価を得たIZ*ONEの「Fiesta」日本語バージョン。メンバーの宮脇咲良が訳詞を手がけたことで大きく話題になりましたよね。
原詞の意味を日本語に最大限に取り入れただけでなく、演者側から見た楽曲の重要なメッセージや世界観を反映して再解釈したとも言える訳詞は「お見事…」の一言。日本語の詩としても美しく、宮脇咲良の冴え渡るセンスを感じる言葉選びに唸ります。
BLACKPINK「Stay」
この真っ暗な空に吸い込まれちゃう前に
ねぇお願いだから
そばからもう離れないでよ
どうしても君じゃなきゃダメなの
そばにいて… Stay with me
日本語歌詞:Emyli
やや日本語が拙く聞こえる拍感の部分があるものの、「詩」としてかなり成功しているなあと思うのが、BLACKPINKちゃんのバラード曲「Stay」。
原詞を見てみるとかなり大胆に意訳してある箇所もありますが、日本語歌詞として世界観を損なわないようにしながらも成り立たせている点がすごい!
おまけ考察
最後に、いろいろ調べた末にちょこっと考察をしてみます。訳詞が成功するパターンや、訳詞が難しいパターンについてまとめてみました。
①韓国語の歌詞をそのまま採用し、音を楽しむ曲も
フックソングや韓国語の音遊びを活かしたフレーズの多い曲では、韓国語の歌詞を敢えて訳さず、そのまま採用している場合もあります。
韓国語の軽快な音やリズムを楽しむことができ、耳に残る曲として愛される例も。代表例としては、一世を風靡した少女時代の「Gee」でしょうか。
ただし原詞の割合が多すぎたり、前後の日本語歌詞と整合性が取れていないと意味が通じなくなり、「トンチキソング」になってしまう場合も。
②楽曲ジャンルにかなり影響される
日本語の特性と近いメロディラインや言葉量の曲は、訳詞が成功しやすそうです。一方で、音遊び言葉遊びが多用されているヒップホップ曲はなかなか訳詞が難しそう。
③コンセプトも成功には大いに関係あり
楽曲のメイン概念が言葉遊びを兼ねている場合は、訳詞がかなり難しいのではないかと思います。
上記で紹介した例では、ONEUSの「Valkyrie」などがこれに当たります。その他の例では、PENTAGONの「Daisy」が顕著。※下記は本国版
この曲は、メインコンセプトが2つの言葉の掛け合わせになっていて、白い花「デイジー」と、「火や熱さで肌が傷付く、苦しい経験をしてこりごりする」という意味の韓国語「데이다(デイダ)」がダブルミーニングに。
同音異義語が曲の概念を司る繊細な曲はかなり訳詞が難しそうですが、それでも評判は良いみたいなので訳詞家さんは本当にすごいですね。
後記:異言語の音楽を翻訳するということ
異言語を翻訳するということが難しくリスキーな行為であることは、KPOPを愛好する皆さまであれば、日々身をもって感じていることかと思います。
それをさらに、拍や音程、発音、リズム、その言語が持つ音声的特性など、数々の音楽的な制約を受ける「日本語歌詞」として訳詞することは、非常に難しいことです。
わたし自身、日本語バージョンに関しては今までその意義にやや懐疑的でしたし、KPOPの日本語バージョンに複雑な思いを抱いている方は少なくないとは思います。
オタクとしてはどうしても原詞との差異を覚悟して身構えてしまうことが多いものですが、韓国語の原詞の言葉を丁寧に拾って紡がれた、きらっと光る秀逸な日本語歌詞があるのも事実。
日本語バージョンを聞くことで、韓国語ネイティブではない人にとっては、歌詞がより直感的に沁みてくるという薬効も時にあるのだと思います。
この記事が日本語訳詞に対して少しでも「あっ面白いかも!」と思えるきっかけや、「訳詞」という行為の難しさと面白さへの扉になれば幸いです。
訳詞、絶対大変だと思う!!!訳詞家の方々、いつもありがとうございます!!!
訳詞家さんの果てなき言葉との戦いに思いを馳せて.
Written by.
スヤ
〈インタビュー協力〉
小野貴光様、玉木千尋様(Time Files ,inc)
〈Special Thanks〉
でこ、のん、べに、はにちゃん、脳ちゃん、素子ちゃん、きおくちゃん、たこぴ、甘ちゃん(秀逸日本語曲のピックアップにご協力いただきました。ありがとう〜!)
ねるちゃん(Sportify版プレイリストを作ってくれました。ありがとう…!)