こんにちは、でこです。
みなさま、いつも「集合知」をご愛顧いただきありがとうございます。
おかげさまで9月17日をもって当ブログは1周年を迎えることとなりました〜!やった〜!
というわけで、mi-casa FESTA企画第一弾!ライター三者三様の視点からBTSの新曲Dynamiteについてあれこれ書いちゃいます!!
◇◆◇
BTS初の英語詞楽曲、かつこれまで類を見ないくらいの底抜けに明るいテイストということで、「BTSの新境地」「コロナ禍での新しい挑戦」とそれはそれは各所で話題に上ったDynamite。かくいう私もファンクやディスコといったジャンルに類するご機嫌ブラックミュージック大好き芸人を生業としているだけあり…大騒ぎをいたしました。それはもう。
そこで!ビルボード「Hot 100」首位獲得も記念して!今回はDynamiteの深掘り主観解説文のみならず、アイドル×ディスコミュージックが持つ類稀なる魅力、そしてそして…ある種今まで名言を避けてきた禁断のキーワード、「大衆的・キャッチーであることの是非」というアイドル産業の根っこに迫る部分までクローズアップします。
!いつも通り私の薄〜〜い経験則を元に書いているお気持ち記事なので一説としてお楽しみください!
- BTS Dynamite 解説&楽曲初聴感想
- アイドルディスコって、いいよね!おすすめ曲紹介
- "キャッチー"って何?音楽的に考えてみる
- 【考察】BTSは「大衆的になった」のか:アイドルビジネスと大衆性
- おわりに:だって前を向くしかないから
BTS Dynamite 解説&楽曲初聴感想
前述の通りディスコファンク大好きオタクのでこ、ティザーが出た時点で血湧き肉躍っていました。
思ったより早く防弾がブラックみ漂うディスコナンバー持ってきてしまったあああああああああああああああああああああどおおおおおおおおええええええええええええええええ‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️なんで!?!?!?誰!?!?!?!?ボムジュヒョン!?!?!?!?!?!?!??? https://t.co/IQ756GlDZH
— でェィスこ (@decoranger_neo) 2020年8月18日
防弾から微かなブラックミュージックの波動を感じるために永遠にD&Wの収録曲とシーソー聴き続けてたから……霞食って生きてきたから……生きるし死ぬ😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭
— でェィスこ (@decoranger_neo) 2020年8月18日
俺の‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️一番好きなニュートロを‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️一番好きなグループが‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️すっぞ‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️デスコーーーーーーー‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️🕺🕺🕺🕺🕺🕺🕺🕺🕺🕺💥💥💥💥💥💥💥
— でェィスこ (@decoranger_neo) 2020年8月18日
祭
ニュートロブームとBTS
ここ1〜2年、韓国歌謡界のブームの一つに「ニュートロ」という潮流があります。 New+Retro=NEWTRO。つまりは温故知新。かつて流行った様々なテイストの楽曲を現代流にアレンジする、ということです。
ニュートロブームに関してはこちらの記事の「平行宇宙」解説部分にてもう少し詳細に触れています。
もはやネタも出尽くしたと思われたK-Pop界のニュートロブームに、BTSが真正面から乗り込んできたのはちょっと意外でした。
なぜって、かつての防弾少年団は今のK-Popで主流なジャンルであるトロピカルハウス(Save ME)やムーンバートン(血、汗、涙) ほか、ワールドトレンドをいち早く韓国市場へ持ち込み流行の最先端を突き進んでいたから。加えて、幅広いジャンルを網羅する彼らでも、ファンクやディスコといったご機嫌なブラックミュージック*1が最も手薄なジャンルだったことも、意外性に拍車をかけています。
だってR&B+レトロポップニュートロがNEO ZONEにより確立され、シティポップ再解釈ニュートロがシャンプー妖精で爆誕し、完全体ニュージャックスウィングニュートロがドンキズアイキャンにより降り注ぎ、あと一つ欲しかったディスコファンクがまさか自推しから供給されると思わないじゃない
— でェィスこ (@decoranger_neo) 2020年8月19日
2016-7年ごろの防弾少年団とは異なり、今のBTSが醸し出すは世界を股に掛ける王者の風格。例え彼らのバックボーンがヒップホップであろうと「K-Pop界の頂点を極めた彼らが、2020年今この状況で世界に向けてリリースすることに意味がある楽曲」という大きな大きな役割を背負って君臨したというわけです。なので、必ずしもこの曲は「欧米セールスに擦り寄った」とは言い切れない、というのが私の持論です。後ほどここについては詳しく触れます。
……ということを踏まえて、楽曲初聴時の感想です。Twitterに投稿したツリーをある程度見やすくまとめ直したものですが、勢いで書いた文章なのでお見苦しい部分はご容赦ください・・・・だっていいディスコだったんだもん・・・・ 人生はダイナマイトだもん・・・・
【歌唱テクニック・発音について】 【ミキシング・コーラスワークについて】 【曲の構成・バックトラックについて】ここをクリック
余談:アコースティックバージョン(嘘)も良かった話
Dynamiteはリミックスバージョンが4種出ています。そのうち、アコースティック(とは名ばかりのしっかりプラグド)バージョンが思っていたよりも刺さったよ、という話。
確かにアコースティックと言われて想像するのはアコギにカホンに…ですが、どちらかというとこのバージョンは「高音質環境で聴くためのダイナマイト」だと思いました。原曲がレトロなステレオに向いているローファイマスタリングだったとすれば、こちらは楽器の一音一音が粒立っていて、良いイヤホン・スピーカーで聴くほど堪能できるハイファイマスタリングだな〜という印象です。※アコースティックは嘘。
空間を埋めないことで際立つグルーヴもあるよね!という気持ち 原曲が鍵盤とブラスの曲なら、こっちはベース・パーカス・ギター主体のサウンドって印象だな〜随所で鳴ってるシェイカーやトライアングルは原曲にないからより生バンド映えしそうだし、こっちの方が鍵盤薄い分リードギターが遊んでる
— でェィスこ (@decoranger_neo) August 25, 2020
アイドルディスコって、いいよね!おすすめ曲紹介
BTSのリリースが珍しかっただけで、アイドル界においてディスコというジャンルは古くから親しまれてきました。それこそ遡ると国内では西城秀樹のY.M.C.Aみたいなところまで行き着きます。
そしてディスコファンクはでこ個人の音楽ルーツに繋がっていくジャンルでもあり…黙っているわけにはいかなかったので…これまでに出会った、Dynamiteと同じジャンルに類するディスコファンクの楽曲を何曲かピックアップしてご紹介!韓ドルも邦ドルもごちゃまぜ!
K-Pop編①:SHINee "Married To the Music"
まずは親しみのあるK-Popから。コンテンポラリーなサウンドを得意とするSHINee先輩が初めて挑んだレトロ路線の楽曲・Married To the Music!
美麗でファンキーなコーラスの掛け合いに、女性でも高い音域のフェイクオンパレードは流石の風格。サビに爆発力をもたらす一瞬のブレイクはもちろんのこと、Dynamiteでも取り入れられている2サビ後のリズム露出+掛け声パートは、コンサートでの盛り上がりを想定したアイドルディスコ楽曲の構成として文句なしの百点満点です。
K-Pop編②:DONGKIZ "FEVER"
昨年リリースされたDONGKIZのタイトル曲、FEVER!タイトルからしてザ・王道ディスコナンバーです。
Kool & The Gangのような王道ディスコナンバーを彷彿とさせる楽曲に、KポップらしくEDM的な電子音の展開が新しさを感じさせます。イントロからきらびやかなストリングスとブラスが響き渡り、分厚いトラックには思わず飲み込まれてしまいそう。サビ前のFEVER!!は全員で叫ばずにいられません。
誰しもが一度は耳にしたことがあるだろう名曲。
ジャニーズ編:嵐 "復活LOVE"
国内ドルのディスコやファンクといえばジャニーズの話を避けては通れません。私のアイドルファンク・アイドルディスコ好きの源流もここ。
まさにディスコブームの時代を生きていた少年隊に始まり、今では信じられないほどの有名ファンクミュージシャンが楽曲に携わったSMAP(詳細は「スマッピーズ」で検索)、飛び抜けて造詣があり自身のソロ曲もブラックミュージック全開の堂本剛(KinKi Kids)…と枚挙にいとまがないですが、今回取り上げるのはまだまだ記憶に新しい嵐のシングル曲・復活LOVE。
山下達郎・竹内まりや夫妻という最強の布陣によって書かれたこの曲。イントロのギターでグッと心を掴み、続く艶やかなストリングスがどこか懐かしい夜の街を思わせるソウルフルなサウンドです。
ジャニーズの歌謡曲ってどこか物悲しい哀愁が漂っていてそれが唯一無二の魅力だと思っているんですが、この曲もまさにそんな感じ。ただ明るいだけではないアイドルディスコについ引き込まれてしまいます。
ハロプロ編:モーニング娘。"The 摩天楼ショー"
「つんくファンク」というジャンルが生まれるくらい、ディスコ・ファンク楽曲をずっとアイドルの文脈で展開し続けているのがハロプロ。挙げ始めたら記事がもう一本書けてしまうくらい大好きなのですが…今回はディスコ曲の紹介ということで、2013年リリースの両A面曲・The 摩天楼ショーをピックアップしました。
リリースから7年が経過し(マジか…)当時のメンバーは10人中4人しか現役でないながらも、未だにコンサートでは定番の盛り上がり曲。歌い継ぐメンバーそれぞれの個性や親しみやすいダンスなど見どころはたくさんあるのですが、特筆すべきはそのトラック!
サビ後半(1サビ「もう離さないで~」裏)で鳴っているベースライン、これは往年の名ディスコナンバーであるEverybody Dance (Chic)のイントロで流れる有名なラインをオマージュしてい(ると勝手に思ってい)ます。気づいたとき鳥肌すごかった。
随所にこだわりのあるハロプロ式ブラックミュージック。つんく御大のブログにはライナーノーツ(楽曲解説)が掲載されているので必見です。
モーニング娘。 7/4発売 シングル「One・Two・Three / The 摩天楼ショー」 | つんく♂オフィシャルブログ 「つんブロ♂芸能コース」 powered by アメブロ
その他邦ドル編:フィロソフィーのダンス "ダンス・ファウンダー"
もう一つ!もう一つだけ紹介させてください!
国内ドル屈指の「楽曲派」との呼び声高いガールズグループ・フィロソフィーのダンス。代表曲のダンス・ファウンダーは、まさにアイドルディスコの本命ソングです。メインボーカルのハルちゃんはアイドルという枠組みでは語りつくせないくらいの本気ディーヴァ。シンプルに歌がうますぎる。
初出版よりこっちのリボーカルバージョンが好き。
楽曲PDを手掛ける宮野弦士氏はファンクミュージックにたいそう明るく、一曲一曲にブーム当時のテイストを感じさせるようなオマージュが随所に組み込まれています。前述のThe 摩天楼ショーと同様、この曲もChicのテイストがふんだんに含まれているとのこと。ご本人のブログで詳細に解説されており、とっても勉強になります。
フィロソフィーのダンス2nd Album「ザ・ファウンダー」、作編曲家による全曲解説、その① - 宮野弦士のいまさらするまでもない音楽の話
もちろん原典のディスコファンクもそれはそれは大好きなんですが、中でも私が飛び抜けて「アイドルディスコ」を好きなのは、その「わかりやすさ」が故かなと思っています。
ディスコファンクに限らず言えることですが、アイドルの土台の上で知る色んなジャンルの良い音楽が大好きで。数多ある音楽に精通したプロデューサー陣が、メンバーたちを輝かせる最善の文脈で、かつその時代性や流行をすべて加味して、歴史あるジャンルを最大公約数まで噛み砕き、それぞれのグループの色で再解釈する…そんな過程の全てがたまらないんです。
"キャッチー"って何?音楽的に考えてみる
ここまで挙げてきた楽曲は、いずれも一度聞くだけですっと耳に馴染み、気付いた時には身体が踊り出すこと間違いなしのナンバーです。知らないはずの曲なのにDNAが踊れと言っている。そう、どれも「キャッチーな曲」ですよね。
では、ディスコソングは何ゆえに人を惹きつけるのでしょうか?
よくわからんけど楽しいからいいや〜〜〜〜!といえばその通りなのですが・・・専門的なワードは極力外しながら、ちょっとだけ音楽的に詳細を噛み砕いてみます。
ディスコソングは「大衆を踊らせる音楽」
もともとディスコソングのルーツは、ブラックミュージックの中でも「ファンク」や「ソウル」と呼ばれるジャンル。そう、Dynamiteの歌詞 "Shining through the city with a little funk and soul" の、ファンクとソウルです。
ディスコとファンクは同一のものとして捉えられがちだし実際私もこないだまでよくわかってなかったんですが、す~~~~~んごい平たく説明すると多分こんな感じ。
参考:ディスコとは?一世を風靡したジャンルを徹底解説 | Crown Cord
つまり、これまでに紹介してきた楽曲たちは、ファンクはファンクでもディスコでかける=ダンサブルなトラックに仕上げたディスコファンク/ファンキー・ディスコと呼ばれる曲ということです。多分。認識間違いあればご指摘ください…
ちなみにディスコロック成分を含んだ曲だと、嵐のワイルドアットハートとか。ロック特有の歪んだギターが特徴的ですよね。あと先日餅ゴリが発表したソンミとのデュエット曲・When We Discoは往年の歌謡曲成分がふんだんに含まれたユーロディスコ曲です。ディスコにもいろいろある。
さて、「踊らせる音楽」であるディスコファンク、具体的な特徴をいくつか。
まず上に挙げた曲全てに共通して言えるのは「四つ打ち」を主体としていることです。
スラップベース(ベンベンのやつ)やカッティングギター(ちゃきちゃきのやつ)を多用し跳ねるようなグルーヴが際立つファンク楽曲に、バスドラムのズンズン音(語彙がずっとバカ)を拍の頭にプラスしたディスコファンク曲は、全体のリズムにいっそうの推進力が生まれています。Dynamiteのズンズン音、イヤホンで聞くとちょっと大きすぎるくらいに入ってますよね。あれです。さらにそこにクラップ音が加わったとあらばもうそこはダンスホールも同然。身体が素直に動いてしまう秘密はビートにありました。
昨日スタジオのでかいスピーカーで聴いたらベース音の大きさ気にならないどころか空気が揺れてめちゃめちゃ気持ち良かったのでやっぱりダイナマイは爆音で踊るための曲…泣いた…デスコに行きたい… https://t.co/8RvXNlJcha
— でこ (@decoranger_neo) 2020年9月3日
四つ打ちが用いられているのは何もディスコ曲だけではなく、2010年代中期にJロック界で流行した*6「ダンスロック」や、Kポップ楽曲で主流の「ハウス」ジャンルにも同じく使用されています。いずれもわかりやすくノれる曲たち。
さらに、耳に残る華やかさを構成する三種の神器があります。
- ハイトーンかつ幾重にも重なったコーラス
- ファンクといえばブラスセクション!
- 楽曲に彩りと奥行きを持たせるストリングスシンセ
リズム楽器とは対照的に、ボーカルの合間を印象的に埋めるこれらの音は上物(うわもの)と呼ばれ、楽曲のカラーを決める重要な要素となります。つまり、四つ打ちビートが楽曲を「ダンス曲」たらしめるとすれば、その曲に「ディスコ」の要素を色付けするのがこの上物楽器たち。日々更新され続ける音楽のトレンドですが、(あ、なんかこのメロディの感じ、知ってる…!)と思わせるのは、かねてからディスコ曲に使われている要素が変わっていないからではないでしょうか。
もちろん時代の変遷とともに使われる楽器のマイナーチェンジはしていて、例えばシンセ音楽全盛の90年台の曲だとブラスセクションが生楽器ではなくシンセブラスが用いられていたりするのですが、これもまたブログが一本書けちゃう話題なので割愛。あと専門知識がそこまでない
この3つに着目しながら今一度Dynamiteを聴いてみると、グクの多重コーラス女声に引け取らなさすぎ〜〜!とか、2番から入るブラスたまんね〜〜〜!とか、ラスサビの奥の方になんか一瞬ぶわぶわのシンセいる〜〜〜〜!とかアハ体験ができます。最終的にダイナマイのインスト音源しか聴かなくなる次元、たのしいよ。
そしてそして、アイドルディスコならではの要素といえば「サビ」の存在。
もともとファンクミュージックの類に「メインテーマ」こそあれど、分かりやすく盛り上がる「サビ」の存在はJ-PopおよびK-Popならではの文化だと思います。キャッチーなサビは楽曲の代名詞も同然。一瞬でもフックになる部分を作り関心を作り出すことはポップミュージックにおいて必要不可欠な中、元々がシンプルな構成であるディスコファンクはアイドル文法に当てはめやすかったのだろうと推察します。人間、盛り上がると踊る。ないし光る棒を振る。
このように、ディスコファンクは旧来のファンクよりも「多くの人を踊らせる」ことに特化した作りをしています。
想像してみてください。ストレス発散のためにふらっとクラブに行きました。大音量で流れている音楽がド変態変拍子で気持ち良さを味わいたいのに曲知らないからノれない、でも周りの人は全員ノっていて自分だけ疎外感を感じる…そんなことが起きるダンスホール、話にならないですよね。
つまり、「踊らせる曲」には例え原曲を知らなくても楽しめる「普遍性」と「キャッチーさ」が必要不可欠です。それがアイドルの至上命題である「大衆性」にバチーン!!とハマった瞬間、アイドルディスコという最高にフィーバーな楽曲が爆誕するんですやったーーーーーー!!!!
【考察】BTSは「大衆的になった」のか:アイドルビジネスと大衆性
ここまでいかにディスコミュージックが「キャッチーであるか」について書いてきました。そして、「大衆的な音楽である」とも。
この「大衆的」という言葉、実はあまり口にするのが好きではありません。そこには発言者の恣意的な解釈が多分に含まれているからです。
デビュー当初から自作ラップを繰り広げ、ヘイターたちを華麗に蹴散らし、「米国で成功するために英語曲を歌うのはK-Popではない、アイデンティティを曲げたくない」とまで宣言していたBTS。それが一転して、誰もに愛される明るい曲調に全編英語詞を乗せてリリースしたシングルはビルボードHot 100の頂点にまで上り詰めました。
.@BTS_twt earns their first #Hot100 No. 1 with “Dynamite,” making them the first all-South Korean act to top the chart. 🏆 https://t.co/K2QMIGS8vr
— billboard (@billboard) 2020年8月31日
これが果たして「大衆的になった」の一言で片付けられて良いのだろうか。
なぜ、このタイミングでDynamiteのリリースに至ったのか?という大元に立ち返りながら、ここからはアイドル産業とは切っても切り離せない「大衆的・キャッチーであることの是非」について、自分なりに考察してみます。
※ここから先の内容は憶測を多く含みます。とあるオタクの空想としてお読みください。※
大衆に向けないポップスはポップスじゃない
そもそもの大前提として、「ポップス」の辞書的意味は下記の通り。
【ポップス】
ポピュラー・ミュージックの略。西欧のクラシックでも伝統音楽でもない、大衆音楽のこと。
確かに、楽曲のジャンルでくくればヒップホップやブラックミュージック等、細かすぎるほどにカテゴライズされます。ただ、一歩引いてみれば彼ら・彼女らは間違いなくK-Popアーティストです。韓国の大衆音楽であるK-Popというフィールドの中で戦い、K-Popという看板を背負って世界と渡り合おうとしている彼らに対して、楽曲のテイストが変わったからと言って安直に「大衆的になったかどうか」という議論を持ち出すのは果たして望まれたことなのか…と考えてしまいます。
「キャッチーでいい曲だね」という褒め言葉が存在する一方で、「推しグルが大衆に媚びるようになってしまった」と否定的なニュアンスで使われることの少なくない「大衆」という概念。ファンダムによっては「大衆に向けて曲を出すこと=悪」とさえ囁かれたり、一方で「いつまでも個性派気取ってないで大衆にアピールしろ」とも言われたり、常に議論の絶えないトピックのひとつです。(ライフハック:「グループ名 大衆」でTwitter検索かけると闇の深い呟きがいっぱい引っかかるのでお手軽にカオスを味わいたいときにおすすめ)
でも、これってめちゃくちゃ独りよがりな考え方じゃないですか。
人の好みは千差万別で、自分の好みに合う曲/合わない曲、好きなコンセプト/苦手なコンセプトは聴衆の数だけあります。世の中の流行によってメジャー・マイナーの区別がつくことこそあれど、好きなものに優劣はありません。
例えば曲のテイストが自分好みで応援していたグループが路線を変更して、それをきっかけにセールスの成績が上がったとします。でもその路線変更は、自分の好みとは合わないものでした。そのときに出る「大衆向けになった」という落胆の気持ちは、「大衆」と「自分」を切り離して考えている。さも自分は大衆の1人ではないみたいに。
逆のパターンで、ずっと自分の好みの曲を出していたものの成績の振るわなかったグループがいたとして。それが色々なきっかけ(多くは大人による複雑で、緻密で、ある種ブラックボックスなプロモーション=故意に起こしたもの)を経て、あるとき急に成績が上がったら。ファンは得意げに「大衆が○○に追いついた」と言うでしょう。ここでもやはり「きっかけがなければ良さに気づかなかった大衆」と「兼ねてからそれを応援していた自分」が切り離されています。
でも、アーティスト自身が、会社が、相手にしている聴衆は、貴方と大衆を果たして区別しているんでしょうか。
ドラスティックな言い方をすれば、コンテンツに1人で100万円使ってくれるオタクも、1再生2円のサブスクをたまたま一度聞いてくれた50万人の聴衆も、入ってくるお金は一緒。夜を徹して5千回MVを再生してくれるオタクも、たまたまトップページからアクセスしたら動画が再生された5千人も、見た目上の数字は一緒。
じゃあ「大衆」って、誰?「公式が媚びようとしている『大衆』」の中に自分が入っていないって、断言できなくないですか?だって、発売した音楽を聴いてくれている(と想定されている)人には変わりないんだから。セールス戦略に自分の好みがそぐわなくなったからって都合のいい言葉で境目を引くのは、なんか違う気がする。
この議論がなされるのは大方「アイドルファンコミュニティと、アイドルに対して偏見を持たないリスナー層*7」の中での話であって。比較的似た傾向のアーティストを支持している人々の間のやり取りに過ぎないからこそ、その中を「『大衆的』に属すかそうでないか」で区切ってしまうのは余計な分断を生むだけだと思う。商業音楽でマネタイズをするなら、多くの人に聞かれることをマイナスと捉えてしまう空気感があってはならない。芸術と商業を両立させるって難しい。
かといって何度も何度も似たようなものを焼き直しするのはすぐに飽きられてしまいます。そこで必要になってくるのが「キャッチーさの足し算・既視感の引き算」。この手法は実にいろいろあって、例えば楽曲、例えばコンセプト、例えばプロモーション方法、などなど。正解が分かったら苦労しないし、手を変え品を変えどうやって大衆にアピールするか、アーティストごとの戦略を見比べることこそが面白さだと思っています。
↓韓国音楽業界内での売込み分析は下記の記事で詳細に書きました。「キャッチーさの足し算・既視感の引き算」についても詳しくはこちらから。
BTSが向き合う「大衆」とは
例えば、BTSが自身のヘイターたちに向けて放った痛快な皮肉・MIC Drop。
BTSが世界での人気を決定づけたLOVE YOURSELFシリーズの第1作として発表されたミニアルバム・LOVE YOURSELF 承 'Her'。 洗練されたサウンドのタイトル曲・DNAは初のAMAsパフォーマンスで話題をかっさらった一方で、同じアルバムにMIC Dropが収録されていることに、「やっぱり私たちのBTSは媚びないところがすてき!」と、ファンも勝ち誇ったような気持ちでいたことを記憶しています。
ただ、この曲が「自分たちのやりたいことを貫き通した曲」かと言うと、本質はそうではなく…むしろ紛れもなく「大衆に向けて書かれた曲」で。
もう会うこともない 最後の挨拶だ
言いたいこともない 謝罪もするな
自分のことよく見ろよ なんてザマだ
俺らはパッと噴き出す まるでコーラだ
お前の角膜はアッと驚く
かなりイケてんだろ
多くの人に聴かれれば聴かれるほど、この曲のリリックは輝きます。
だからこそ、キャッチーな曲調で多くの人の耳に残るから大衆的になった、デビュー時からずっと貫いてきたやりたいことを守ってるから大衆には媚びていない、と二元論で話す前に、一回立ち止まった方がいい。聴衆の多様性は、そんなに簡単に分けられるもんじゃない。
世界規模のアーティストとなったBTS。リーダーのRMは、2018年のインタビューでこのように答えています。
──特にアメリカでの反応は熱かったですね。(中略)現地のファンたちはどんな部分で情熱的な反応を見せましたか。
RM:
結果的にファンたちもファンである以前にコンテンツを消費する大衆です。その方々が「コアなファン」になるのは、目には見えない差異を区別しているからだと思います。パフォーマンス、ビハインドなどの動画コンテンツで感じる僕たちのケミストリーと本気、音楽とクオリティの高いパフォーマンスが結合すると、それより強力な武器はないように思います。その点が言語の壁を越えてラジオに僕たちの歌を申請する起爆剤になったと思います。
引用元:180128[単独インタビュー]防弾少年団「成功の秘訣はSNSではなく本気+実力」① - スメラルドの花言葉
──音楽の方向についてたくさん悩んだことがわかります。試行錯誤があったのか、どんな過程を通して方向性を掴んだのでしょうか。
RM:
ビルボードにランクインしたりMelonチャートの何位に入るということを離れても音楽的な試行錯誤は常にあります。過去の試行錯誤が「大衆とファンにアピールしながら僕らのアイデンティティを守る方法は何か」というものだとしたら、今は聞いてくださる方が増えたので「DNA」に続く次のタイトルを持って取り組んでいます。目に見える成果が、大小の試行錯誤を通じて出てきたように、次のタイトルも多くの試行錯誤を経ていくと思います。4年前の曲「Danger」がMelon54位にチャートインし、その日中にチャートアウトになって家を出たまま戻らなかったのですが、その時期を覚えていますから今は感慨無量ですし、これからも試行錯誤を続けていかなければと思います。
引用元:180128[単独インタビュー]防弾少年団「音楽で投げかける話題、共に悩んでくれたら」② - スメラルドの花言葉
オタクがあれこれ考えを巡らすまでもなく、誰よりも大衆の心を掴むことを試行錯誤してきた彼ら。ある種こうした議論が巻き起こることすらも想定内かのように達観している(わけでは決してないかもしれないが、少なくともそのように演出できる)様子は、「ポップス」というフィールドで戦う上での冷静な覚悟があるように見て取れます。だから私は大衆のひとりとして彼らの向かう先を支持するし、次の試行錯誤がどのような仕上がりになるかを楽しみにしたい。
2020年夏、Dynamiteのリリースに至った理由を考える
BTSと楽曲の大衆性はこのように幾多もの議論が重ねられてきたわけで、ではなぜ2020年このタイミングでのDynamiteリリースに至ったのかを考えてみます。
もちろん、記者会見等ですでに語られているように、コロナウイルス流行という未曾有の状況下(コロナは本当に本当に滅びてほしい)(ほんとに)(ほんとに・・・)、当初予定していたツアーもできなくなり、エンタメビジネス自体が危機に瀕した結果、「英語詞曲のリリースはしない」というポリシーの部分を含めた全ての前提を壊して考えざるを得なかった、それが明るくて皆に喜んでもらえるような曲のリリースに繋がった・・・という事実が大前提としてあり。
その上で、なぜこのディスコファンクというジャンルを選んだのか。
要因①Dynamite 作曲者インタビュー:ヒントはJamiroquaiにあり?
Dynamiteの作詞作曲を手掛けたのは、現在UKに拠点を置いて活動している、スコットランド出身のDavid Stewartと、コンポーザー仲間のJessica Agombar。楽曲リリース後に行われたインタビューにて、Davidは下記のように制作秘話を明かしています(意訳・抜粋)。
BTS Dynamite Capital Scot Interview - David Stewart and Tartan ARMYs
- 「BTSが初めて英語詞のみの楽曲を作る」という計画が進み、そこから会話を重ねて楽曲を仕上げていった。
- 楽曲制作時にインスピレーションを得たアーティストはジャミロクワイ。
- 楽曲のラストの転調(Key change)は、「今は世界に明るい”キーチェンジ"が必要だ」というメッセージを形にしたもの。
- 英語の歌詞のニュアンスは、メンバーの意向に合致するよう何度もやり取りをした。英国で一般的な表現でも、(韓国はおろか)アメリカですら不自然な言い回しになる可能性があったためだ。
- 自分の送ったデモ音源から、彼らはさらにキーをふたつ上げて録音していた。彼らの才能には目を見張るものがある。
上記の動画の声を聞くとわかる通り、Davidの英語は生粋のスコティッシュ・アクセント。にも関わらず、DynamiteでBTSが歌唱する英語はきっちりアメリカン・アクセントになっています。アメリカをルーツとするブラックミュージックなのに、なぜ作詞作曲はUKのチームなのか…?
それを紐解くヒントとなり得るのが、上記インタビューで言及されていた、Davidと同じく英国を拠点として活動するアーティスト・Jamiroquai。90年代にデビューしたジャミロクワイは、イギリスを代表するアシッド・ジャズのアーティストです。
日清のカップヌードルCM曲として使われていたVirtual Insanityはあまりにも有名。
このアシッド・ジャズというジャンル、ベースにある音楽は上述のソウルやファンクという所に変わりないのですが、特筆すべきは「ブラックミュージックをリスペクトしたイギリス発祥のジャンル」だということ。黒人音楽をルーツに持ちつつも、プレイヤーの人種を問わないジャンルなんです。ファンキーなグルーヴはそのままに、よりアップテンポで親しみやすい華やかな形に再解釈しています。
これが何を思い起こすかというと、韓国歌謡界でブームを起こしているニュートロ。そう、当記事の冒頭「ニュートロブームとBTS」で触れたあれです。
今回BTSがアメリカ市場に焦点を絞ってブラックミュージックの楽曲を出した、母国のファンよりもアメリカの大衆にアプローチするための曲だ、と結論付けるのはやや早計だと思っています。
ダンサブルなブラックミュージックのリバイバルブームは、確かにアメリカ市場でも起こりました。でもそれは2010年代中頃の話。Get Lucky (Daft Punk)がグラミー最優秀賞を受賞し*8、Uptown Funk (Mark Ronson)が空前のブームを巻き起こし、Bruno Marsのアルバム・24K Magicが自身最大のセールスを記録した時期のことです。2020年現在、既にブームは次のフェーズに移っていると考えると、トレンド調査に事欠かないビッグヒットがここをターゲットにしたとはちょっと考えにくい。
となれば、2010年代中頃のヒットによってファンク・ディスコ曲の土壌が再構築された所に、BTSが韓国のニュートロブームを改めて持ち込んだと考えるのが自然ではないでしょうか。それも当時のまま焼き直しをするのではなく、かつてブラックミュージックを新しい文化として再構築した、アシッド・ジャズの文脈を借りる形で。その結果、国内セールス・海外セールスともに話題を呼んだのでは?と推察します。
Jamiroquai - Little L (Official Video)
↑ディスコを舞台とした77年の名作『サタデー・ナイト・フィーバー』をモチーフにしたと言われているジャミロのヒットナンバー、Little L。Voのジェイソン・ケイは英国出身ながら、音楽のルーツとなるアメリカをリスペクトし、発音も寄せています。
世界規模の人気を博したBTSには「K-Pop=韓国発の大衆音楽」という冠すら不要かもしれない…とも考えられますが、少なくともグループ活動を行なっている間は「K-Popアーティスト」であり続けるんだろうなと、願いも込めながら思っています。
欧米エンタメ市場がカルチュラルギャップを少しずつ撤廃しようと(≒賞レースの権威を取り戻そうと)しているムーブメントの中で、「K-Popを受け入れる」という現象は紛れもなくプラスのマーケティングになるし、アーティストサイドからしたらそこに乗らない手はないはずだから。その上、彼ら7人が背負っている母国の看板は大きな負担であると同時に誇りのように感じられるから・・・と空想しながら、いちファンは今日もMa Cityを聴いています。
ブラックミュージックの香りを思わせる、数少ないBTSの既存楽曲。
要因②Black Lives Matter運動に対する意思表示:彼らの貫く「防弾」とは
コロナ禍という未曽有の事態において全世界に議論を巻き起こした、Black Lives Matter運動。BTSもTwitterにて人種差別に立ち向かう意思を示し、その翌週には100万ドルを寄付しています。
メジャーシーンで音楽を発表することにおいて、ジャンルの源流となる歴史や文化をないがしろにすることはあってはなりません。実際、「文化の盗用」問題などはKポップ界隈でもしょっちゅう取り沙汰されています。
これは憶測の範囲を超えないですが、ブラックミュージックをこのタイミングでリリースした理由の一つにはこの問題があったのではないかと思っています。彼らなりの音楽に対するリスペクトと、人種差別と戦う意志がダイナマイトに込められていた、そんな気がしてなりません。偏見や差別といった銃弾から若者を守っていた、かつての防弾少年団の根っこは変わっていない。これでもなお「BTSは大衆向けに変わってしまった」、でしょうか?
エンタメ業界のみならず世界中に暗雲立ち込める今年、この局面で彼らが選択した音楽のジャンルこそが「大衆を励まし踊らせる音楽=アイドルディスコ」だったという事実に、私は歓喜の拍手を送りたい。ディスコこそ、大衆に愛されるべくして根付いたジャンルだから。それを積極的に選び取ったBTSへ、なお一層の信頼を抱いた2020年夏の思い出です。
おわりに:だって前を向くしかないから
世の中の景気が悪くなると、人々は娯楽に救いを求めるようになる。これは昔から変わらない事実、ってつんくも言ってる。
コンサートに行けなくなったって、国に文化を抑圧されたって、寝て起きたらまたいつもの明日が来る・・・
だからこそ、「逃げ」ではなく「手段」として、鬱々とした日常に光をくれる、些細だけど明るい音楽を持っていたい。前を向き続ける指針になったっていいし、背中を押して一緒に踊ってくれる音楽だっていい。自分が大衆の端くれだって、みんなで踊ればそれでいい。
だって人生はダイナマイトだから!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
Shoes on, get up in the morn' Cup of milk, let's rock and roll - Dynamite🎶🥛🎶 #JK pic.twitter.com/BVmViBuuhE
— 방탄소년단 (@BTS_twt) 2020年9月3日
【完】
*1:R&Bやネオソウルは過去にありましたね。テヒョンのソロ曲"Stigma"なんかは立派にブラックミュージックの流れを汲んでいると言えます。また、ホソクのソロ曲"MAMA"のゴスペルもブラックミュージックの一つ。詳細はこちらから
*2:口を大きく開けて「ア」と「オ」の間のような音を出す発音。イギリス英語ではより口をすぼめて「オ」の発音をするため滅多に用いられない。
*3:ジミンは自身のソロ曲"約束"でその歌い方をものにした説を提唱しています。詳しくはこちらから
*4:EDMで用いられる音色。詳しくはNU'EST記事の解説を参照
*5:1人の声を複数重ねることで厚みを持たせること。
*7:上手く言語化できなかったのですが…例えば「ラジオから流れてきた音楽に関心を持って、調べてみたところ行き着いたのがBTSというアイドルだった・・・という段階で興味を失わずに、いちアーティストとして音楽を聴いてみようと食指が動いてくれるリスナー」という感じのニュアンスだと思ってください(伝われ)